201
式典の準備に追われながら自分の支度も済ませた。必要な書類はどさくさに紛れて片付けてしまった。あと私に残された仕事はあの人と花嫁を笑顔で送り出すことだけ。「行ってらっしゃい」そして、さよなら。遠くから愛しい貴方に最後の敬礼をする。「やだ…」晴天にもかかわらず私にだけ雨が降ってきた。

202
「好きなのを持って行っていいぞ」大佐宛てのプレゼントを整理していると声をかけられた。「そんなことできません」「そうか…では君宛てなら受け取ってくれるかな」手渡されたのは小さな黒い箱。開けてみると中にはチョコレート色のピアス。もう、そんな不安気な目をされると断れないじゃないですか。
 *バレンタインデー

203
「うーん」ザッハトルテを前に唸っている。「お気に召しませんか」「とんでもない!そうではなくて...これは昨日買った材料で作ったんだよな」「はい」「あれをいったいどうすればこの美味いケーキになるんだ。君、本当は鍊金術師か?」真剣な顔で尋ねてくる。師弟って似るものなのかしら、変な人。
 *バレンタインデー

204
「お疲れさまでした。外は凄い雪ですよ」二人並んで窓の外を眺める。「今夜は帰れんな」ドキリと心臓が跳ねる。「予定は全てキャンセルですね」「独り占めできて嬉しい?」見透かされた気がして悔しいけれど、今夜は素直になってみようか。「そうかもしれません」驚いた顔の貴方に自分から唇を寄せた。

205
深夜3時。やけに静かだと思ったらペンを握りしめたまま眠っている。このまま休ませてあげたいがそうもいかない。声をかけようと近付いたその瞬間。見てしまった微かに動く唇。紡ぎ出されたのは音にならない私の名。「リザ…」いったいどんな夢を見てるんですか。眠ってまで私を惑わせるなんて酷い人。

206
「…大佐、起きて下さい。大佐」頭上から彼女の声。おかしい、今は私の腕の中にいるはずなのに。「大佐」声に促され目を開けると少し困ったような顔。しまった、居眠りの上に夢まで見たか。「ああ、すまない」動揺を隠し返事をするが動悸は止まらない。夢にまで出てきて惑わすとは君はなんて酷いんだ。

207
「どうした?」「あの辺が光ったので」「よし、見てこよう」「大佐!」この好奇心は学者故か。戻ってきた彼は石を一つ差し出した。「錬金術で作ったものではない、自然の産物だ」「綺麗な色ですね」「ピアスにでもするか」「え…」「鷹の目の戦利品だ。それなら使ってくれるだろう?」Yes,sir.

208
「起きてください。遅刻しますよ、大佐」心地よいまどろみの中で君の声がする。朝特有のハスキーで色っぽい声をもう少し聞いていたくて狸寝入り。「もう、仕方ないですね」近付く気配にキスでもしてくれるのかと思えば「マスタングさん…すき」脳髄で破裂するとんでもない爆弾!この天使、いや悪魔め。

209
「うっ、ひっく」「どうしたの?」「たいさが...」「また何かした?」「髪が伸びてるので切りましょうかって尋ねたら...いらん、あっち行けって」「子供に何て言い方をするんですか、貴方は!」「ふん」「大丈夫よ、誰に対してもあんなだから。全く、私にしか切らせないってどういうことかしら」
 *彩雲国妄想

210
いくら訓練しているとはいえ、こう連日眠れないと疲れが溜って思考もおかしくなる。昨日は比較的早めに帰れたけど体がいうことをきかない。あぁ今すぐ逃避行でもしてやろうか…なんて考えていたら腰の辺りをぎゅっと抱きしめられた。偶然よね。まさか考えてることお見通しなんてことは…やだ、うざい。

211
「仕事上は有能な副官。プライベートでは浮気も見て見ぬ振り、私の望んだ時だけ抱いても怒らない恋人…実に都合のいい女だな。そう思わないか?」優しい貴方は偽悪的に振る舞って私を解放しようとする。けれどそれは大いなる勘違い。一人で生きていけない私にとって貴方の方が都合のいい男なんですよ。

212
執務室の扉を閉めると突然後ろから抱き締められた。「何ですか」「栄養補給。仕事が早く終わるように」「馬鹿なことを。それに職権乱用です」「それでもいい」顎を掴まれて軽いキス。「君が拒まないなら、私はそこにつけ込むよ」今度は深く長いキス。こんなに焔を付けられて拒めるはずがないでしょう。

213
結婚。花嫁。純白のドレス。知ってはいるが私には遠い言葉。贖罪。咎人。血塗れの軍服。日常からかけ離れているが私には似合いの言葉。なのに晴天の霹靂。「結婚してくれ…私の花嫁に。純白のドレスを着て欲しい」だなんて、更に罪を重ねるのですか。でも喜んで参りましょう、二人に似合いの地獄まで。

214
「ここですか」「ああ気持ちいいよ」最近お疲れなので全身マッサージ。「ありがとう…」あら寝てしまったのかしら。ゆっくり休んでくださいね。そうだ、仕上げを忘れていた。耳に「ふ~」「ぎゃっ!何をするんだ」真っ赤になって大佐が飛び起きた。「仲良くなるお呪いだそうです」「…」何か間違った?

215
「おい、司令官が持ってるらしいぞ」「マジか。今から急襲だ!」司令部が朝から騒がしい。飛び交う会話から推測するに、昨夜の飲み会で潰れた者が多く、困った同僚達が特効薬を持っているらしいグラマン中将を狙っていると。「噂を流したのは大佐ですね?」「ふふん、中将殿もたまには困ればいいんだ」
 *彩雲国妄想

216
「ホークアイ君に頼みがあるんだけど」「命令ではないのですか?」「うん。聞いてくれたら新型ライフルの採用に口添えしてもいいよ」「よし乗った!」「そうかそうか。交渉成立じゃな」「で、私は何をすればいいんですか?」「簡単な仕事だよ。君にはマスタング君の嫁になってもらう」「...は!?」
 *彩雲国妄想

217
あまりの眠さにベッドに倒れ込み瞼が落ちる瞬間、美しい肌色が視界に飛び込んできた。ああ、あれは魅惑のふともも。今すぐ飛びつきたいが身体が動かない。「く、くそうっ」彼女のミニスカ姿なんてこの先拝めるかどうか。「君...何のつもり...」「嫌がらせです」楽しそうな声が聞こえた気がした。

218
休憩時間にふと外を眺めると、木の傍で細くて長い足がぴょんぴょん跳びはねていた。「何してるの」「あ、マスタングさん。風で洗濯物が飛ばされてしまって…」「取ってあげるよ」「すみません。きゃっ」風に捲れるスカート。「み、見ましたね」「見てない、見てないよ!」僕は初めてリザに嘘をついた。

219
「今日は随分と張り切って訓練されてましたね」「ああ、最近さぼってたからな」無造作にTシャツを脱いで彼女に渡し、代わりにタオルを受け取る。「あ…大佐、汗の匂いが」「えっ、臭い?」不味い嫌われたかと焦る。「いいえ、この匂い好きです」「なっ…」本気なのかからかってるのかどっちなんだ?!

220
「大佐」「どうした」箱を抱えて少し困り顔の彼女。「マダムから荷物が届いたのですが...たまには羽目を外して遊べと」中を覗くとぬいぐるみのような獣耳が数種類。さすが育ての親だ、私の嗜好を読み切っている。「これなんかどうだ?」「にゃん」いつの間にか猫耳装着。彼女の方が一枚上手だった。
 *耳の日

221
「…!」悪夢に魘され飛び起きた。呼吸を整え意識を現実に引き戻す。「リザ…」逢いたい。顔を見て温かい身体を抱き締めたい。そんなことを考えるうち右手は無意識に受話器を握っていた。私が望めば彼女はすぐにでも駆けつけてくれるだろう。だがそれは諸刃の剣。大きく息を吐き、私は受話器を置いた。

222
トントン…控えめなノック。緊張と期待、後悔と罪悪感、それぞれが主張し牽制し合いながら少しだけ優位に立った感情が私を突き動かす。「すみません…こんな遅くに」雨に濡れた彼女を見た途端それは堰を切って溢れ出す。「逢いたかった」私は欲望のままに彼女を掻き抱いた。

223
「はい」目の前に差し出されるデザート。「何ですか」「見て分からない?苺だよ」ええ、そんなことは分かっています。「どうしろと?」「お好きに」ニヤニヤとこちらの出方を楽しんでいる。「ではいただきます」ペロリ。吃驚して耳まで赤くなる彼。どうだ、参ったか。咥えると同時に指を舐めてやった。

224
得意になったのも束の間。その指が私を誘い、何時の間にやら腕の中。ペロリ。唇を舐める紅い舌。「苺の味がする」「当たり前です」冷静を装って彼を睨み返すが効果なし。「苺もいいが、私は君を味わいたいな」黒い蜜のような声音と瞳に誘われて自分から唇を寄せてしまう。「美味しいよ」ああ、悔しい。

225
「誤魔化すな、何もかも態度に出ている」部屋を出て行こうとした私を彼の手が引き止めた。「君は私が好きなはずだ。そうだろう? 」ビクッと肩が震える。まさか知られていたの。恐る恐る振り向くと黒い瞳が揺れている。「お願いだ…私の側にいてくれ…」いつになく必死な彼の声に私の心の鍵が外れた。
 *花咲ける青少年「花鹿パパママ編」妄想

226
朝早くに出勤して仕事がしやすいように整えてくれる君。頃合いを見計らってコーヒーを淹れてくれる君。夜遅くまで残業に付き合ってくれる君。体調を気遣ってくれる君。私の背中を守ってくれる君。どんな時も一緒にいてくれる君。伝えたい言葉は他にあるけれど、今は万感の想いを込めて「ありがとう」。
 *サンキューの日

227
自分の方が忙しいのにいつも私を気遣ってくれる貴方。仕事をさぼる振りをして私に息抜きをさせてくれる貴方。他の誰でもなく私に背中を預けてくれる貴方。私の業と罪を一緒に背負ってくれる貴方。伝えなくてはいけない言葉は他にあるけれど、今はこれだけで許してください。「ありがとうございます」。
 *サンキューの日

228
「うん、美味い」一口すすり嬉しそう。「唯のスープですよ」「愛情が入ってる」恥ずかしげもなくよく言える。「君は努力家だな」「え?」いきなり何?「あの頃に比べたら格段に腕が上がってる。ほら塩と砂糖を間違えたことも…」「そんな昔のことは忘れて下さい!」もうこれだから昔馴染みは困るのよ。

229
「頼むよ~、マスタング君」「無理です」「シンに伝あるでしょ」「あっても無理です」「…君さあ、先週の木曜日泊まったよね」「は?」「ワシの最愛の孫の部屋に」「!」「うんうん、いいのよ。ひ孫の顔が早く見たいな~」「…っ、分かりました。善処します」「あ、そう。じゃ宜しくね」この狸ジジイ!

230
「豪華だな。私の好物ばかりじゃないか」先日のお礼に夕食に招待した。「すみません、こんなことしかできなくて」「何を言ってるんだ。君が使ってくれるだけで嬉しいのに。今日はずっと付けてくれてただろう?」「知って...」「当たり前だ。でも大好物はこっちだけどね」耳をピアスごと舐められた。

231
「ふう」ひどく疲れた様子でドサリと椅子に座り込む。「まったく、どいつもこいつも...」よほど会議の内容が酷かったのだろう。でもそんな彼の表情が、目の前の珈琲を口にした途端一変する。「まあ、君が分かってくれてればそれでいいか」笑顔で返す。特別製だと分かってくだされば私も満足ですよ。
 *琥珀さんに素敵絵をいただきました

232
「大佐」「んー」「そろそろ休憩を」朝からずっとこの調子。邪魔したくはないけれど構ってほしくて少し甘えた声で言ってみた。「たいさ…」「ん?そんなに寂しかった?仕方ないな」「違います!」照れ隠しに横を向くとふわりと優しく抱きしめられた。「キスする?」そういうことは聞かずにして下さい!

233
「あんっ、もう…」思わず声が漏れてしまった。これだから桃を剥くのは嫌なのだと濡れた手をタオルで拭う。隣にはデザートをリクエストしたにやけた顔の男。「いい眺めなんだがなぁ。あっ、そんなので拭いてはもったいない」「ベタついて気持ち悪いんです」ペロリ。「これごといただくのがいいんだよ」

234
理不尽な事件、減らない仕事に残業、さらに心ない中傷まで耳に入った。普段なら感情を抑えていられるが、さすがにこう疲れていては耐えるのも難しい。心が折れそうになって下を向いたその時...。ぽんと肩を叩き去って行く後ろ姿。ああ、まだ私は頑張れる。大きな背中にまた生きる元気を与えられた。

235
「私だ」まさかこんな日に来るなんて。いや、今だからこそか。「中尉…」玄関でいきなり私を抱きしめて彼は告げる。「必ず全員、生きて帰るぞ」「はい」「そして帰ってきたら…君を抱くからな」いきなり何を言うのだこの人は。「リザ、返事は?」うまく言葉にできない私はぎゅっと彼を抱きしめ返した。

236
「緑化計画か...」「次の計画ですか?」「先にやらねばならんことが山積みなのに、つい夢のようなことを考えてしまってね」「...」「いつかこれを実行に移せる日がくるのか...」「大丈夫です。きっと無駄にはなりませんよ」「君がそういうならそうかな」「はい」きっと、そう遠くない未来に。

237
「嘘ですか」「ああ、罪のない悪戯だよ」「大佐はそういうのお得意ですよね」昔は小さな嘘もつけなかった人なのに、いつの間にこうなったのかしら。「君は苦手そうだな。すぐに顔に出るよ」「そうですね。嘘は苦手です」そう言って私は自分に嘘をつく。彼に見透かされないように、自分自身に嘘をつく。
 *エイプリルフール

238
「誕生日おめでとう」そう言って渡されたのは一通の招待状。何だろうと首をひねっていると開けるよう促された。「な…」「うん、今すぐは無理だけど…予約でいいかな」もうどうしてこんなことするんですか。不意打ちです。それは世界にたった一枚の招待状。差出人は…Riza&Roy Mustang
 *ぽるかさんのお誕生日に

239
仕事終わり、有無を言わさず家に連れ込まれた。「あの…私、今日は…」キスの合間に訴える。「ああ、知ってる。辛くないか?」「あ…ありがとうございます」「大丈夫、これ以上は何もしない」「…はい」「でも寂しいから抱き枕にはなってもらうよ」えっと。どこから突っ込んだらいいと思う、ハヤテ号?

240
「中尉、帰るぞ」「にゃぁ」にゃあ、だと?!うっ、可愛い。「 かなり酔ってるな?」「酔ってないにゃー」早く連れて帰ろう、危険だ。「こんなになるまで飲んで。ほら、立って」「にゃん!」ぎゅう。当たってる!胸が当たってる!私の息子が立つぞ!?「歩けるか?」「らめぇ」ああもう!我慢できん!

241
ダダダダダダッ バタン!「中尉!資料は出来てるか?!」「大佐、廊下は走らない!どうぞ、資料です」「…ん、すまん」「それからドアも静かに開閉を」「わ、わかった…」「ホントに分かってるんですか?!」「分かった、分かった。以後気をつけます」「全く…」「よし時間だ。行くぞ」「は、はい!」

242
どきどきどきどき。いい年をして呆れる。さっきまで仕事で一緒にいたはずなのに…。でも久しぶりのデートなんだから仕方ないか♪うーん、服はどれにしよう。この前買ったのはどうだろう。あれに合う靴はあったかな。ああ!シャワーを浴びる時間がない!どうしよう、遅れても臭くても中尉に嫌われるぅ!

243
はむっ。ハヤテ号の小犬たちがやっているの見て、どんなものなのか試してみたくなった。はむはむっ。「何?甘えてるの?」「いいえ。ちょっと興味があっただけです」「ふーん」はむっ「ひゃあっっ!」「分かった?」「...」「何事も実体験は大切だね」はい、ようく分かりました。朝にはやりません。

244
そわそわと落ち着かない様子でこちらを見ている。勘違いで私を叱りつけたことを気にしているのだろう。大丈夫だと言ったがダメらしい。チラチラと視線を感じておかしくなる。さてどうするか。「リザ、ほら」両手を広げるとそろそろと近付いてきた。「ごめんなさい」こんなところも可愛いくて仕方ない。

245
ふかふかの白猫を抱いて気持ちよく寝ていると額に柔らかい感触。惜しい、唇まではまだ遠い。何しろうちの白猫は根性の入った照れ屋だから一筋縄ではいかない。「そこでなくてこちらに欲しいな」寝惚けた振りをしてキスを催促。最終的に私に逆らえないのは知っているからね。ああ、夜まで我慢できない。

246
黒い髪、黒い瞳、そして極めつけは「大衆のために」を理想とする鍊金術師。彼女の気を引くのには充分だろう。幸せになってくれと願いながら、認めてはいけない感情がじりじりと私を焦がす。「中尉、昨日はゆっくりできたかね」「はい、おかげさまで」戻ってきたことに喜ぶ自分。罪がまた一つ増えたな。
 *いずみんさんのSS「ifからきたひと」より妄想

247
「ん、んん…」「うん?」「…」「何?」「…」何だ、寝言か。「たいさ…」「ん?」やっぱり起きてるのか?「す…」「す?」「ふにゃ…」「え?」「す…」ああ、好き、だな。知ってるよ。「…たいさの…」うんうん、そんなに好きか。「…すけべぇ…」ちょっ、リザちゃん?確かにそうだけども、ええ?!

248
何をされても大丈夫。どれだけ傷つけられても、汚されても、例え殺されたとしても。彼になら何をされても大丈夫。私への感情が実感できるから。それが憐憫でも怒りでも。そう、愛情でなくても。彼が私一人だけに向けてくれるものだから。その一瞬だけ彼を独占できるのだから。地獄へ落ちても愛してる。

249
「何?」「…」榛色の瞳が私を見つめている。「どうした?」「…」頬が薔薇色だ。そういえば今日はペースが速い。「飲み過ぎたか。眠くなった?」「…」象牙色の美しい腕が伸びてくる。酔っている女性をどうこうする気はないが、ちょっと困る。「寝室へ行く?」「…ちゅう、して…」えっ、何かの罠?!

250
「CMの後はリザ・ホークアイさんのお天気です」CM中。「今日も期待してるよ。駄洒落もね」「はい、頑張ります」CM明け。「では週末のお天気です。土曜日は生憎の雨、日曜日は朝から晴れの予報。洗濯するなら日曜日まで待って」少しためて。「出て来い!リザさん2号!洗濯日和を逃がサンデー!」
 *ニュースアンカー 片平さんのお天気コーナーパロディ

251
「お腹がすきました」「食事に行く?」「面倒です」おや、疲れているのか。「では何か買ってきてあげよう」「イヤです」「イヤってどうするんだ」「一緒にいてください」可愛いことを言う。ん?何か言いたそうな視線。「あの、食べてもいいですか?」なんだそういうことか。「どうぞ、お気に召すまま」

252
あれよあれよと言う間にグロホワさん主催「あんそろ本」に参加することになった。周りは私が尊敬している方達ばかりでドキドキ。でもこんな機会は一生ないから頑張ってみようっと。都合のいいことに来週あたりエドワード君が来るはず。しっかり観察させてもらうわ。大佐との絡みは見逃さないんだから!
 *未発表企画「グロホワさん」より

253
「んー、いい匂い」ぼふっと背中にのしかかりくんくんと鼻を鳴らす。まるで大型犬。「そうですか?味の保証はできませんよ」「君がいい匂い」カッと首筋が熱くなる。なんて恥ずかしいことを言うの。「邪魔しないでください。すぐできますから」「ねえ…抱いていい?」もう!耳元で囁くなんて狡いです。

254
んん...明るい...そろそろ起きなきゃ...「んっ」ぼー...何時?時計どこだっけ...お休みだからいいいか。ワンワンッ!「あ、ハヤテ号...おはよ...」ぼー...あ、ごはん...。もそもそ。「ん..」ぼふっ。痛い...顔から落ちた...。「おい!大丈夫か!?」んー...ん?
 *マキミーさんの素敵絵より妄想

255
「すみません。私でなければ...」やはり気にしていたのか。謝るのはこちらの方なのに。「何を言ってる。私達にはもういっぱいいるだろう」「え?」「エリシアもいるし、鋼ののところにもまた生まれるじゃないか。この国の子供はみんな私達の子だよ」本心からの言葉だが、ちゃんと伝わっただろうか。

256
式典が終わり、控室で上着を受け取りながら彼女が口を開いた。「お疲れ様でした」「ああ、君もご苦労様」昔から変わらない真っ直ぐな瞳が私を見つめる。「お疲れさまでした…マスタングさん」「有難う。でも君も今日からマスタングさんだよ。すまなかった…随分と待たせたね」最高の笑顔に涙が溢れた。

257
「あの、これ使って」「えっ」心配そうな顔の少女がハンカチを差し出してきた。「お姉さん、このおじさんに怒られたの?」大人が物陰で涙を流していれば間違われても仕方がないか。大佐を見ると口をパクパクさせている。このままでも面白いけれど、誤解は解いておかなくては。また仕事が溜まっちゃう。

258
ヒューズ少佐の結婚式に何故か私も招待された。花婿が上司の親友だから不思議でもないか。式の前に二人の元へ挨拶に伺う。小さい頃から「花嫁さん」にはあまり興味がなかったけれど…。「おめでとう」ああ、そうだったのか。上司の祝いの言葉に涙を浮かべ微笑む彼女を見て、私の中の少女も泣いていた。

259
「これは?」「昇進祝いだ。受け取りたまえ」自分の昇進はそっちのけで部下への労いですか。全く貴方という人は…「えっ」小箱の中身に絶句する。「ドレスを着る時にはそれを付けてくれないか」断れるはずもない、いや今後これ以外付けることはないだろう。ピアスに作り変えられた貴方のカフスの欠片。

260
ほっ。今日も無事に任務を終えた。中央はいつもと違う神経を使うので疲れる。さっさとシャワーを浴びて寝てしまおう。・・・静かね、もう眠ったのかしら。まさか外出なんてことは。(ガチャ)(バタン)(ジャジャー)やだ、この隣がバスルームなんだわ。壁を隔ててるのになんでこんなに恥ずかしいの。

261
「終わった…」「お疲れ様です。肩でも揉みましょうか?」「頼む…ん、気持ちいいよ」「恐れ入ります」「しかし珍しい。君がこんなことしてくれるなんて」「そうですか?今日くらいは…お誕生日おめでとうございます。今夜待ってます」な、何?!今耳にチュッて!それより今夜?!「中尉!もう一度!」
 *琥珀さんのお誕生日に

262
「あの、マスタングさん...これを」リザがおずおずと花束を差し出してきた。「えっ、僕に?」「違います!マスタングさんのお母様にです。いつも何かと気を使っていただいてるので、お礼に...」恥ずかしがっているリザと勘違いした自分。受け取ったのは二人以上に真っ赤な野生のカーネーション。
 *母の日

263
『リザの誕生日はいつなんだい?』『え、あの、先月でしたけど…』『うわっ、しまった。ごめん、来年からは毎年きちんとお祝いするよ!』一時途絶えたこともあったけど、その約束は今も守られている。「ありがとうございます、大佐」「いや、君こそ生まれてきてくれてありがとう」ぎゅ。来年も一緒に。
 *まこさんのお誕生日に

264
「もう!どうして貴方はいつもいつも!出てってください!」いつものようにちょっかいを出したら寝室から追い出された。仕方ないとソファで本を読みながら待つこと一時間、そろそろか。パタンとドアの閉まる音。ブランケットを持った彼女がぴとっとくっついてきた。くすくす。これだからやめられない。

265
つん。膝の上に座る彼女の髪を引っ張って遊ぶ。「もう伸ばさないのか?」「長い方がお好きでした?」「いや、そういうわけではないが…」そういうわけではないが、何か物足りない。つんつん。「もう、引っ張らないでください」「うん…」頬を膨らませて怒る彼女。ああそうか、この顔が見たかったんだ。

266
「今日は約束していたかな?」「あ、いいえ…」いきなり訪ねては失礼よね、でも今日は…。「わざわざ来てくれたのか。有難う」えっ、まさか。「私が覚えていないとでも?」自分だけが大切にしているのだと思っていた…初めて貴方と出会った日。長い付き合いなのにまだまだ知らないことがあるんですね。
 *琥珀さん主催の611の日企画「611 Museum」

267
6月11日…何の約束もしていないのに彼女が逢いに来てくれた。二人の始まりの日。それを私が覚えていたことに驚いたのか、慣れないことをして照れているのか戸惑う姿が可愛らしい。昔から変わらない私だけが知っている彼女の素顔。これからも長い付き合いになるのだ、もっとたくさん見せてもらおう。
 *琥珀さん主催の611の日企画「611 Museum」

268
「22:30」「終われましたね」「だから言ったじゃないか」「はいはい、有能なことで」軽く受け流された。「んっ、痛っ」「そのまま、動かないで」切れた指を彼女がぺろりと舐める。「ずっと無能でいてください」「えっ、いいのか?」声が上擦る。「私の存在意義ができますから」傷に唾液が染みた。
 *琥珀さん主催の611の日企画「611 Museum」企画内企画「セリフしばっター」

269
「ついて来ないでください」小さな声でリザが呟いた。「一人で大丈夫です」「あ、僕もそっちに用があるからさ」だって、そんな遠い所まで一人で行かせるのは不安じゃないか。道に迷うかもしれないし、どんなヤツに声をかけられるか分からないし。それに「護衛しろ」って師匠の目が本気で怖かったんだ…
 *琥珀さん主催の611の日企画「611 Museum」企画内企画「シチュしばっター」

270
「大丈夫か」「すみません。明日は出勤できそうです」「いつも無理をさせてすまない」「平気です...電話有り難うございました」「顔色が悪かったからな。何かして欲しいことはないか?何でもするぞ」「では...手を握っていてくれませんか」「ん」「有り難うございます」これで安心して眠れます。

271
「いってらっしゃい、マスタング大佐」わざとぶっきらぼうに言って送り出す。怒ってるわけじゃない。貴方の女と副官…スイッチを切り替えるにはかなりの努力が必要なんです。「今夜は必ず戻ってくるよ」空約束は辛いだけなのに、そんな言葉とキスに嬉しくなってしまうのはまだ切り替わっていない証拠。

272
「もう、どうしてこんなに濡れてるんですか」彼女の小言を聞きながら髪を拭いてもらう。「雨の日は無能なんだから自重してください」実際は無能じゃないって知ってるくせに。ほら目は笑ってるじゃないか。「何をニヤついてるんですか、全く」ぷうと膨れた顔も可愛くて仕方ないからもう少しこのままで。

273
身体に染み付いた血と硝煙の匂い、殺伐とした日常。何のために、誰のために闘い続けているのか。国のため、国民のため、次世代のため。そんなものは大義名分でしかなく、本当はただの女のエゴだと分かっている。「おいで」私を呼ぶ声と手。何もかも彼のためだと、そう嘯いて全てを彼に委ねる…狡い女。

274
「どうした?」「いいえ何も」そんな真っ青な顔をしてバレないとでも思っているのか。「運転を代わろう」「結構です」全くなんて頑固なんだ。「あっ、そこで止めろ!」車に戻ると運転席にはやつれた姿の彼女。「ほら」「ひゃっ!」冷たい缶を青白い頬に当て、無言のエールを送る。もう少しだ、頑張れ。

275
もう、また潜り込んできたのね。くしゃ、ちゅっちゅっ。いつまでも仔犬のつもりなんだから。ぎゅう。ん、何?この圧迫感は…「な、何してるんですか!」「何って、してきたのは君だろう」さらにぎゅっと抱きしめられる。「私はハヤテ号だと…離してください!」「え、そんな…すっかりその気なのに…」

276
「結婚式?」「はい、招待状が届いてます」「このクソ忙しい時に無理に決まってるだろう」「そうですね」ちょっと残念。「...視察でも何でもいい」「は?」「適当に調整したまえ。君の妹分の結婚式だ、出ない訳にはいかないだろう」「有り難うございます」くすっ。貴方の大事な弟分の、ですものね。

277
「情けないな。手足をもがれて身動きがとれん…」誰も予想し得なかった状況にさすがのこの人も沈んでいる。でも諦める訳にはいかない。「大丈夫です。貴方の手足はばらばらに散っても神経はまだ繋がっています」「そうだな、まだ終わりじゃない。機能回復の余地はある」黒い瞳の焔はまだ消えていない。

278
「予備の手袋をくれ」緊急時のために預かっている手袋を差し出す。側にいられない以上私が持っている必要はない。けれど何だか心許ない気がするのは不安のせいか。「代わりにこれを」そう言って彼が取り出したのは同じ手袋。「…」「いつでも私に渡せるよう、常に携帯しておいてくれ」Yes,sir.

279
「『中尉ってすごいですねぇ。僕のネクタイを結んでくれたんですが、そんな授業があるなんてどこのお嬢様学校に通ったんでしょう』…と曹長に聞かれたんだが」「はい?」「君が嘘をつくなんてめずらしいな」「嘘なんかついてませんよ」「え、だって、君…」「ちゃんと個人授業は受けましたよね?教官」
 *ロイ教官

280
「あの…」「ん?」「すみません。何でもないです」どうしよう、言ってもいいのかな。我が儘よね。「どうした?」「あの…今夜は外食したい…です」ああ、言っちゃった。「ぶっ、相変わらずだなあ。そんなことすぐ言えばいいのに」「えっ、でも我が儘じゃないですか?」「全然。ほんとに君は可愛いな」

281
「大佐」「ん」また本の世界に没頭してしまっている。「お茶が入りましたよ」「ん」きっと私の声は耳までは届いても頭の中までは届いていないのだろう。だったら一度だけ呼んでみようか。一生に一度だけ...「  」「え、何?もう一回呼んで!」ウソ、小さい声だったのに聞こえたの!?どうしよう。
 *ちまさんが漫画にしてくれました

282
「リザ、遅れるぞー」頭頂を抑えて困り顔の彼女がやっとバスルームから出てきた。「寝癖が...」手をどけさせると髪が一房ぴょこんと跳ねている。か、かわいい。「ずっとひっついて寝てたもんなあ(くすくす)」「寒かったからです!」昨夜はそれほど寒くなかったけれど、そういうことにしておこう。

283
「おかえり」金色の髪をわしゃわしゃとかきまぜると、手を払いのけられキッと睨まれた。「もう、子供扱いしないでください」「君ね、そんな膨れっ面をすると余計に幼く見えるよ」「知りません!」ぷりぷりと怒って部屋を出て行く彼女。それも子供っぽくて可愛いいんだが...む、他所には出せないな。

284
「失礼しやっす...」開けたその手でドアを閉める。「どうした、いないのか?」「いや、いるにはいる」「どうしたんですか?」「馬鹿、開けるな!」「あ...」「最近お疲れでしたからねぇ」ソファの背もたれに仲良く並ぶ黒と金。「外から鍵かけとくか?」「それよりこれ貼っとけ」【開けるな危険】

285
「どうした?」彼女が背中にもたれかかってきた。「何も...」と言いながらさらに体重を預けてくる。「構って欲しいの?」「いいえ」構ってほしくてこんなことしてるんだろう?振り向いて髪を撫でると気持ちよさそうな顔をする。ついでにキスをと顔を寄せると逃げられた。うーん、難しいお嬢さんだ。

286
最初に情けをかけたのが間違いだった。小雨の降る中しっとり濡れた黒い毛が可哀想で拾ってしまったのが運のツキ。ハヤテ号には有効だった銃での躾けにも従わずやりたい放題。人の嫌がる事ばかりするくせに私がちょっとへこんだ時にはタイミングよくすり寄って。もしかして最初の出逢いも計算だったの?

287
「何ですか」視線だけで燃やし尽くしそうな勢いでハヤテ号を睨み付けている。「もう、この子が怯えてるじゃないですか!やめてください」「君の絶対領域護衛官としては例え犬だろうが許せんのだよ!早く膝から降ろしたまえ」ミニスカート…喜ぶと思ったから履いたのに。何でこんな男が好きなのかしら。

288
「あ、また!」シャワーの後そのままの格好で酒を飲んでいる現場を押さえられた。「どうして家ではそんなにだらしないんですか」「んー、誰もいないし喉が渇いたから」「理由になりません。せめて下は履いてください!」正直に答えたのに。「全くもう」あ、それ私の...ラッパ飲みなんてするんだ君。
 *繻子さんの素敵絵より妄想

289
「小さいなあ」「産まれたばかりですから」大の男が恐々抱っこする姿に思わず笑みが零れる。「立派に育てよ」「大丈夫です。父親は有能だし、うちの躾は厳しいんです」「そうだな」幸せな空気にあり得ない想像をしてしまう。「私は諦めてないぞ」優しく仔犬を撫でながら彼がボソッと呟いた。「…え?」

290
じっと本を読む横顔を眺めているとむしゃくしゃしてきた。両手で顔を挟みぐきっと音がしそうな勢いでこちらを向かせ噛み付くようなキスをする。ふふ、驚いてじっとこちらを見てる。これくらいならできるんだから。満足して離した唇が笑みを浮かべて発したのは…「ん?それが精一杯?」ああ、ムカつく!

291
「治療に邪魔だから」「新しい赴任地では短い方が便利だから」理由を考えると色々浮かぶけれど「なんとなく」というのが本当のところ。そういえば伸ばしたのも「なんとなく」だった。ぱさりぱさりと頭が軽くなるにつれ気分も軽なってくる。理由なんて何でももいい。さあ、かかってきなさい、新しい私。

292
今日は街のお祭りでみんなそわそわしてる。ちょっぴり気になるけど、家事がいっぱいあるし父のお弟子さんも来るから忙しいもの…。「リザ!」帰り道でお弟子さんに会った。びっくりしている私に構わず手を繋いで歩き出す。「師匠には許可もらってきたから」嬉しくて恥ずかしくてうまくお礼が言えない…
 *ミロス公開祭り

293
「いっぱいお店が出てましたね。動物園まであるなんて知りませんでした!可愛かったなぁ。あ、マスタングさんは何が面白かったですか?」よほど楽しかったのか興奮した様子でずっと喋っている。「また行きたい?」「はい!」こんないい笑顔が見られるなら師匠の説得だって何だってするよ。等価交換だ!
 *ミロス公開祭り

294
「どうかされました?」「いいや」そっけなく返すと物足りなさそうな顔。いつもなら殴られても蹴られてもちょっかいを出すのに今夜は一度も触れていない。「そろそろ寝るか」寝室へ向かう背中に柔らかい感触。やっと来たか。振り向きざまに濃厚なキス。君から近付いてきたんだから文句は言わせないよ。

295
「どうぞ」休憩しようかと思ったところでお茶が出てきた。「有難う。いつもタイミングがいいな」「付き合い長いですから」「私には君の考えてることはさっぱりだぞ」「隠していますからね」む、私に対する挑戦か?ならば。「ああ、でも私にも分かる時があるぞ」「どんな時ですか?」「ベッドの中だよ」

296
「中尉、今日は何の日だったかな」「何かありましたっけ」「君の大事な上司の誕生日だろう!祝いの言葉すらないのか…」「ではこれを」「やっぱり準備してたんだ…って、何これ」「ガムです。キスするときは口臭にご注意を」「なっ!」「冗談ですよ。その香りと味が好きなんです」「…それって…え?」
   *すずめさんのお誕生日に

297
「腹へったな」「いい天気ですね」「眠い…」「ハヤテ号の散歩に行かなくちゃ」「あのメモどこに置いたっけ」「冷蔵庫に何もないです」休日はリビングで背中合わせ。「本棚の整理もしないとな」「眠いです…」「まあいいか」「いいですよね」「寝るか」「はい」二人ぎゅっと手を握って床に寝転がった。

298
ベッドから抜け出して彼の軍服を羽織った。大きいのはもちろんだけど礼服のせいか思っていたより重くて少しびっくりする。「何してるんだ?」「あ…」こっそり試そうと思ったのに。「もしかしてずっと見てました?」「素肌に軍服なんて姿は滅多に見られるもんじゃないからね」なんて目ざといのかしら。

299
「む…いつもと違うな」「リン皇帝陛下からの贈り物です。シンでは高貴な方しか飲めないとか」「花の香りだな。ハーブティの一種か」「添えられていた手紙によりますとジャスミンの花を混ぜているそうです。持久力が高まるらしいですよ」「ぶっ!き、君はいつも満足していなかったのかね?!」「は?」

300
ガチャリ「お帰りなさい」「起きてたのか。先に寝ててよかったのにっ…お、おい!」くんくんと犬のように私の匂いを嗅ぎ始める。「いい匂いがします」「そうか?」「はい、今夜は高級なのを飲みましたね?」目だけでなくて鼻もいいのか。「…香りだけでは我慢できません」ぺろり。私も我慢できないよ。

301
この浴衣というのは面白いな。一枚の布をベルト一本で整えるのか。何、下着はつけないだと!?布をはだけると裸にガンベルトだけ…エロい!銃も携帯できるから納得させやすいな。東方から職人を呼び寄せるか、いやいっそ錬成して…「何を考えているんです?」「高度な戦術シミュレーションだ」「はあ」

302
自分の足元で銃を抱えて布にくるまる彼女を見下ろす。これがベッドの中ならどれほどよかったことか。無意識に髪に触れようとした右手を寸前でぐっと握り締める。一番守りたかった女性を一番危険な場所へ連れて行く。触れることが許されない苦痛は、もはや手放せない私の我が侭を満たすことへの対価か。

303
「「あ…」」どうしても飲みたくて来てみれば。「こんな時間にどうした」「大佐こそ。こんな時間に一人だなんて今日のお相手は深窓の姫君でしたか?」「あんまり虐めてくれるなよ…」飲みたくなった原因の男が困ったお弟子さんの顔で呟く。「家で飲み直しますか?」「いいのか?」厄介な男と馬鹿な女。

304
寝そうだなぁ。わっ、本当に寝た…歩きながら寝るなんて器用だな。どうしよう、負ぶってくしかないよな。うーん、スカート…いいのか。いや非常時だ。よいしょっと。うっ!これは…胸!子供だと思ってたのに反則だ。ブツブツブツ…ふう、やっと着いた。って何で今日に限って出迎えてるんですか、師匠!

305
「明日結婚式ですか、おめでとうございます」「ありがとう」気のきく店員が声をかけてきた。「奥様は準備があるのに、夜遅くまでいいんですか?」「いいえ、私ではないんです」そう、相手は私ではないんです。愛しているだけでは駄目なんです。席を立とうとした私を抱き寄せて彼が強引にキスしてきた。

306
二重螺旋を知っているか?二本のDNAは螺旋状に絡まり染色体となる。螺旋ということは交わらないのですね。そう、だが相手は決まっている。DNAはACGTの4塩基で構成されていてAはTにGはCにしか結合しない。決して交わらないけれど補完する相手は決まっている…。まるで私たちのようだな。
 *SSDS「デオキシリボ助さん」より妄想

307
「いつもすまない…」少し困ったような表情で温かい手が頬に添えられた。「ずっと我慢ばかりさせている。君をもっと笑顔にしたいのに…」「いいえ」手を重ねそっと頬を擦り寄せる。「私は幸せです。貴方がくださった分だけ、私は幸せですよ」こうやって控え目に触れてくる貴方の優しさもその一つです。

308
「この血塗れの手で君に触れてもいいのだろうか」頬に伸ばした手が恐怖で震える。「貴方を地獄に導いた私は、触れられる資格があるのでしょうか」そう言う彼女の唇も微かに戦慄いている。離したくない、否、離すことはできない。「共に地獄に落ちるか」「はい」全てを覚悟してお互いの唇を貪り合った。

309
「なんで直前に言うんですか!」礼服の準備をしていないと言ったら怒られた。明日、正確には12時間後には必要なのだから当たり前か。「ご自宅にあるんですね?私がいなくてもさぼらないでください」ぷんすか怒りながら部屋を出て行ったが後ろ姿が少しだけ嬉しそうに見えたのは私の気のせいだろうか。

310
「まだ早いだろう」腰に腕が絡む。彼が寝ている間にベッドを抜け出そうとしたのにまた失敗。「邪魔しないでください」「嫌だ」「時間がありません」「嘘だ」確かにまだ少し余裕はあるけれど。「ん…もう…」髪をかきあげるとすかさず舌を這わせてくる。「仕方ない人ですね」流された振りで貴方を誘惑。
 *かりんさんの素敵イラストから妄想

311
「仮眠する」そう宣言して1時間。そろそろ起こそうかとドアを開けたらベッドに座り込み何かを書散らしている。「寝てなかったんですか」「ああ、思いついたら止まらなくてな」もう呆れるしかない。「倒れても知りませんよ」「大丈夫だ。今夜は早めに切り上げて最高の抱き枕を抱いて寝るから」はああ。

312
「ん、もう朝か…。何日…何曜日だ?」時計を見るといつもの時間だがいまいち頭がすっきりしない。「25日木曜日です」なんだ、起きてたのか。「寝ぼけてるんですか、大佐。雨も降ってます…無能なんだから気を付けてください」「ひどいな…」寝ぼけてるのは君だろう、私はずいぶん前に昇進してるよ。

313
「夕飯できましたよ」「これは?」「ひじきといって海藻の一種です」「へー」「食べると長生きするらしいですよ」「ふーん」 見た目はよくないが味はなかなか。「閣下、付いてますよ」彼女が手を伸ばして…「いだだだっ、ひっぱらないで!剃る、剃るからー!」こんな回りくどい拒絶はやめてください。

314
彼の行く手に火の手が上がり、ありとあらゆるものが焼き尽くされる。その手にあるのは私の背中と同じ火蜥蜴の文様で、彼に力を与えた私が目を瞑ることは許されない。「お嬢ちゃん、仕事だ」「はい」先輩兵に声をかけられ銃を片手に立ち上がる。「今日は焔の錬金術師も出てるってさ」恐怖が、始まる。

315
ビリッと布を裂く音が して振り向くとそれはそれは豪快にドレスを破く彼女の艶姿が目に入った。「何を…」「動きづらいので」大きくなったスリットからは見事な大腿が覗く。「その続きは私が破りたいね」「生きて帰れたらいくらでも」紅い唇を塞ぎながら周囲に視線を走らせる。「よし、覚悟していろ」

316
この手にある銃で他人を撃つのか自分を撃つのか、その判断は紙一重。いつか誘惑に負け自分を標的にする日が来るのか、かつての約束どおり彼を撃ち抜く日が訪れるのか、それとも全く違う未来があるのかそれは誰にも分からない。ただ一つ分かっているのは…彼を撃つのは自分を撃つのに等しいということ。

317
すっと手を取り軽くキスされた。驚いて引き抜こうとするが離してくれない。「あっ…!大佐、やめっ…」私を見つめながら指を舐め始める。「ん…はぁ、あっ、あ…」ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて舌を動かし、一本だけを執拗に舐められる。「ふ…あっ」こんなことで簡単に焔をつけられるなんて…不覚。

318
「うーん」先程から箱を前に大佐が唸っている。 「このボンボン大きいなあ。半分でいいんだが」貴方、馬鹿ですかと言いそうになったが飲み込んだ。「そうだ、君食べないか?」「は?」「ほら」と一つ咥えて顎を突き出してくる。やらなきゃ進まない…覚悟した私はチョコと一緒に唇を軽く噛んでやった。

319
「中尉、そこに座ったままで待機だ」「は、はい」思わず起立しそうになるのを抑え背筋を伸ばす。 「確認を頼む」バサリと書類がテーブルに置かれ…黒い頭は膝の上。「大佐、これでは仕事がしづらいのですが」「私の補佐官殿は優秀だろう?20分で起こしてくれ」あ、ミス発見。15分で起こしてやる。
 *TDR海底二万マイル「座ったままで待機しろ」

320
なんとか起き上がれたけどそれ以上はやっぱり動けない。「そのままで待ってろ」そう言って彼は出て行ってしまった。服も取れないのでシーツを巻きつけポツンと一人で待ちぼうけ。「ふぅ…」「どうした?」あ、戻ってきた。「湯が溜まったぞ、ほら」 お風呂の準備だったのね。安心して彼に抱きついた。
 *TDR海底二万マイル「座ったままで待機しろ」

321
ふと目が覚めて時計を見るとベルが鳴るまであと数分。腰に回された腕を解き、掌、甲、手首、二の腕、肩、鎖骨、首筋へ順にキスをしていくと反対の手で髪を撫でられた。起こしてしまったかと動きを止めるが聞こえてくるのは安らかな寝息だけ。お願い、あと少し、貴方が目覚めるまで甘えさせてください。

322
白壁の家に白いテーブルクロス、白い花の咲く庭、そして白いドレスを着て貴方の隣で笑う私。遥か昔の幼い夢。そんな少女趣味な夢を抱いたこともあったと思い出して嗤ってしまう。今の私達を繋いでいるのは赤い文様に赤い目、流れる赤い血、そして私の眼前で貴方が操る赤い焔。これが現実だというのに。

323
「ねえ、決め手は何だったの?」「え?」「確かにあの人なら、あんたを大事にして幸せにしてくれそうだけど」「違うの、幸せにとかじゃなくて…彼とならどんな苦労も一緒にできる。そう確信したの」「あんたらしいわ。せいぜい苦労しなさい」「ありがとう」そう言ってあたしの親友は幸せそうに笑った。

324
「おばちゃーん」「リザおばちゃん」「うっ…」笑顔が引きつる。子供は残酷だわ、童顔のせいで世間では若く見られてるというのに。「君もいい歳だ。そろそろ観念したらどうかね」「どういう意味ですか!」こめかみがピクピクするのが分かる。「言葉通りの意味だよ。だから早く嫁に来たまえ」全くもう!

325
ばさりと無造作に椅子に上着を掛けて腰を降ろす。いつも特に何を話すでもなく、お茶を飲み終えると帰っていく。「ありがとう、美味かった」「おやすみなさい」見送った後、彼のいた椅子に座ってみた。自分の部屋なのに彼専用の椅子…くすぐったいような気恥ずかしいような何だか不思議な気分になった。

326
公園で仲良く遊ぶ兄妹を見かけたのはほんの偶然で。それを眺める彼女は無表情で何を考えているのか分からない。「欲しいか?」とは聞けない。「誰かと結婚すればいい」とも言えない。なんて無能なんだろう、私は。「大佐、行きましょう」思考に沈む私の背中を彼女が軽く押した。「ああ」行こう、先へ。

327
「おはよう。今日も綺麗だね」「からかわないでください」「からかってないんだが…こういうのは嫌か?」「え、その…恥ずかしいです」「演技なら大丈夫なんだろう?不思議だなぁ。ほら、おはようのキスは?好きって言ってみて」「そ、そ、そんなこと…」「ほらほら」「言えません!」 「可愛いなぁ」

328
よし!心の中で小さなガッツポーズ。 頬に手を伸ばし起きないことを確認してからすりすりと自分の頬を擦り付ける。無精髭がチクチクするがそれを味わえるのも自分だけだと思うと嬉しくなる。しばらくすると起きる気配がしたので再び彼の腕にじっと収まった。少しだけ先に起きた時の私の密かな楽しみ。

329
走っていても格闘技の訓練をしていてもましてや狙撃の時なんてなおさら邪魔になって仕方がない。いっそ伝説の女剣士のように切り取ってやろうかと思ったけれど以前その話をした時の上司の何とも言えない悲しそうな顔が浮かんだのでため息だけを吐き出して彼が喜ぶのならあってもいいかなと思い直した。

330
他の個体より優れた形質、能力を持つ生き物、変異種。人目を引かずにおれない外観、同種を屠ることに特化した能力。それゆえ大勢に紛れても同化できず孤立し同じ存在である相手だけを求め交わる。けれど何百回、何千回交わろうと決して子孫は残せない。世界にたった一組だけの黒と金の哀しいつがい。

331
「ずいぶん濡れてしまったね」金色の仔猫を扱うように乾いたタオルで髪を拭いてやる。大人しくされるがままなのをいいことにわしわしと楽しんでいると不意にリザの手が伸びてきた。「な、何?!」「ほっぺに飛んじゃいましたよ」にこっと笑って頬の水滴を拭われたその瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。

332
外はまだ少し暗いけれど時計は起床時間を告げている。「起きてください」「ん、もう少し…」全身を包む体温に理性が揺らぎそうになりながら、それではいけないと自分を叱咤する。なのにそんなことはお構いなしに隣の人間湯たんぽはぎゅうっと私を拘束する。「もぅ…あと5分だけですよ」寒い朝の葛藤。

333
「クソッ」堪えるような微かな声に振り向くと彼が微妙な顔をして左腕を押さえていた。「腕枕なんかするからですよっ」「ぐっ、触るな!」面白いので腕をつついてみたら本気で怒った。これは相当痺れているみたい。「遊び慣れてるのに迂闊ですね」「初めてだ」「え?」「腕枕なんて初めてだ」顔が熱い。

334
あの頃は親鳥を追い回す雛と同じだったと思う。単なる刷り込みのような淡い初恋。少女の夢はいずれ破れて現実に目覚め本当の恋をするという。私も例に洩れず初恋に破れ現実に目覚めた。そして新たに惹かれたのは…最悪なことに手に負えなくなった同じ男。おかげで夢に囚われてまた彼を追いかけている。

335
「何してるんですか」「慣らしてる」「慣れてませんか」「ああ、なかなか触れさせてくれない」「そうですか」「動物学の本も読んでみたが、難しいな」「難しいですか」「何しろ猛禽類だからね。下手に触れると危ない」「そんなに危険じゃ…ないです…よ」「そうか?だったらちゃんと返してくれ」ぎゅ。

336
「見せてくれ」衣を滑らせ背を向けると熱い手と唇が触れてきた。そのまま動かず数分。初めて肌を晒した時もそうだった、祈りでも捧げているのだろうか。私の背中は経典でも私自身は聖女でもないというのに。「ありがとう」女の淫心に焔を点けたことにも気付かず、男は何事もなかったように離れていく。

337
母親の腕の中ですやすやと眠る赤ん坊を見て、己の罪深さを再確認する。私にはこんな風に命を繋ぐことはできない、できるのは他人の命を絶つこと。表情を殺して、感情を殺して、人を殺す、その繰り返し。お陰で絶つことはこんなに上手くなったのに、たった一つ、この想いだけは断ち切ることができない。

338
「リザ、僕と師匠からプレゼント」「えっ、お父さんからも?」大きな目がさらに大きくなった。「うん、二人で作ったんだ。気に入らない?」真っ赤な顔をぶんぶんと横に振る姿がとても可愛らしい。本当は行き詰まっていた僕の前に錬成陣を描いたメモが落ちてきたんだけど。そういうことですよね、師匠?
 *繻子さんのお誕生日に

339
「あら、ピアスしてないの?」「子供が小さいので危なくって」「なるほど。お母さんしてるのね」「えへへ。リザさんは今日も綺麗なの付けてますね。いくつくらい持ってるんですか?」「さあ…」「ちょうど30組ある」「だそうよ」子供もできて大人になったつもりだけど、この人達には追いつけないわ。

340
「え?ちょっと、エドワード君!」受話器を置くと何事かと目で問うてきた。「今度産まれる子に名前を付けて欲しいって…貴方に」「何?」「断れば貴方の名前を付けて思う存分叱ってやると」「男か女かまだ分からんじゃないか!」「ええ、だから両方考えておけって」思いがけない難題に彼は頭を抱えた。
「女ならまだしも男の名など知らんぞ。人名事典はどこだったかな…」何だかんだ言いながら、彼は楽しそうに子供の名前を考え始めた。きっとギリギリまで悩むに違いない。「何を笑ってるんだ。君も考えろ」「え、私もですか?」「当然だ」困ったわ…でも二人ともありがとう。私達にこんな幸せをくれて。
 *いい夫婦の日

341
「お願いです、大佐」踏み止まってください。お願い、お願い…。「貴方はそちらに堕ちてはいけない…!」堕ちるのは私だけでいいんです。貴方はこちらの世界で生きて…どうか、どうか。ああ、私では止められない。私の命をかけても止められない…。誰か、誰か彼を止めて!お父さん…マスタングさん!!

342
ありがとう、ありがとう。生きていてくれて感謝する。人質に取られても、まだ心のどこかで大丈夫だと思っていた。お互い軍人だから死は身近にあるが、この状況になって初めて実感した。君を失うということ、君が私の側からいなくなるということ。ああそうだ、あの医者の言う通り。君は私の大事な女だ。

343
「ふぅ」カチリとトランクの鍵を閉め、ため息をつく。ホテルに備品は揃っているし準備する物といえば衣服くらい。研修も慣れたものだしセントラルまでの気楽な単独行動。なのに何だろうこの何かを忘れたような心細さは。物思いにふける私にくぅんと鳴いて愛犬が来客を告げる。あ、忘れ物が訪ねてきた。

344
「いい加減に機嫌直してください。大人気ない」大人気ないだと?レストランもホテルも予約していたんだぞ。大人にしかできんだろう!「テロリストは燃やさないでくださいね」燃やすに決まっている!せっかくの予定を邪魔したんだからな。「もう…」ちゅっ「っな!私にしてどうする…君の誕生日だぞ?」
 *マキミーさんのお誕生日に

345
「アール、オー…」キュッキュッと音を立てて文字を綴る。「リザ、師匠のひざ掛けはどこに…」「あっ、マスタングさん!」慌てて冷たい窓を手で擦る。「リ、リビングです」「矢印?それは何かの陣かい?」「何でもありません!」「そうか…じゃあ、おやすみ」ドキドキしたまま窓に残った傘をなぞった。

346
キュッと音を立て曇った窓を拭う。結露…温度20℃、湿度50%の室内で窓や壁の表面が9.6℃以下になると水蒸気が凝集する現象。「もうそんな季節か」そして、冬の到来を告げる風物詩。「そんなことをしたら手が濡れてしまいますよ」あの日窓に相合傘を描いていた少女はそのまま優しい女になった。

347
もし貴方が父の弟子でなければ、もし私が貴方に秘伝を伝えなければ、もし貴方が国家錬金術師にならなければ、もし私が軍人にならなければ、もし二人があの戦場で再会しなければ、貴方の側に私はいなかったでしょうか。答えは否、きっと私達はどんな状況でも同じ選択をする。そうそれは無意味な「if」

348
「この時期はいつも嫌になるな」「市民もテロリストも浮かれて大騒ぎですからね」「君も大変だな。忙しくて何もできないんじゃないか?」「ええ、家の中が…実際、帰りたくありません」「じゃあ、うちに来ればいい」「行きません」「ふぅん」「行きませんからね!やめてください、そのにやにや笑い!」

349
コクリ。細いグラスに綺麗な泡が立ち上る。「美味しい?」コクリ。黄金色の液体の中で星が弾けているみたい。「もう一杯飲む?」コクリ。喉を流れていく刺激が火照った身体に心地よい。「おっと危ない」グラスを持つ手に熱い手が重なった。「味見しても?」コクリ。あ…やられた。重なった唇をペロリ。

350
ゴクゴクといつもより速いペースで杯を傾ける、その喉元から目が離せない。シャンパングラスは飲み干した時に顎から喉元のラインが一番美しく見えるようデザインされているのだとか。なるほど今すぐしゃぶりつきたくなるのも宜なるかな。しかしそれでは野蛮人、紳士たるもの許可を得て…うん、美味い。

351
「もっと力が欲しいな」思わず零れた呟きに彼女が顔を上げた。「早く大総統になればよいのです」私を癒し燃え上がらせる鳶色の瞳。なるほど、歴史は夜作られる…か。「何か?」「もう一度しても?」ピリッと怖い光が走る。「分かった。楽しみはまた今度」軽いキスを交わすと満足そうにその瞳を閉じた。

352
「…」「ん?」このまま委ねていいものかまだ理性が残っている。「…」「ほら」取り敢えず身体を預けてみる。「…」「酔った?」何もかも忘れられたらいいのに。「…」逞しい胸に顔を埋めて堪える。「…」「我慢するな」どうして、どうしてこの人には分かってしまうのか。一番隠しておきたい人なのに。

353
「生まれ変わり?」「東方の思想だ。人は死んでも魂は死なず、別の体に宿るそうだ」「別の…」「異なる時代で異なる人生を生きる。夢物語だな」「探します」「ん?」「探します。どこに生まれても必ず探し出します」「…まあ、地獄に落ちれば生まれ変わることはないそうだが」「ではずっと一緒ですね」

354
満たされたような澄ました顔が憎らしくて、空っぽな自分の身体を埋めようと必死に相手を貪る。奪っても奪っても満たされないのはすでに相手の一部になっている自分を喰う行為だからか。もういっそ完全に同化して自分を失くせば楽になれるのに、それができないのは己の闇を己の罪を知られたくないから。

355
「花でも贈っておいてくれ」大佐のデート管理は私の仕事。デートのドタキャンはよくあることで、お相手へのお詫びの手配も私の仕事。今回は「花」か。どんな花束を喜ぶのか私にはさっぱり分からないから、いつもの店に相手の容姿を告げて任せてしまおう。彼の評判を落とさないようにするのも私の仕事。

356
ドタキャンしたデート相手へのプレゼントを彼女に頼む。「今回はアクセサリーがいいか…」細かいデザインなどを合わせて告げると呆れたような声が返ってきた。「女性より詳しいんじゃないですか?いつもよくそんな簡単に選べますね」「そうかな」本命へのプレゼントは毎回頭を悩ませているんだけどね。

357
「そんなところで何してるの?」この声は…またこの人か。「見て分かりませんか?昼寝です」「今は授業中だと思うのだけれど…」そう言ってマスタング先輩は俺の隣にしゃがみ込んだ。「サボっててもいいの?」自分を棚に上げて説教する気か。「貴女こそ」「私は休講なの。残念でした」なんだか悔しい。
 *聖・アメストリス学園(男女逆転)

358
冷静な表情のくせに私を煽るのは僅かに開いた唇ときらりと光るピアスの赤。捕まるまいと起用に逃げる身体に手を伸ばし本能のままに行動する私は動物以下。無理矢理キスをして冷たく心地よい肌を味わい次に攻めるは彼女の中。色っぽく擦れた喘ぎ声とともに蕩けた彼女から私に与えられる言葉は「馬鹿…」

359
思いがけない、いや本当は心のどこかで知っていた彼からの告白。何もこんな時にこんな場所でしなくてもいいのに、意外と彼は無頓着。これ以上の関係を一度も考えたことがないというのは嘘で、唯の女としての気分を味わえるのは極上の贅沢。でもそれを欲望のままに受け入れるかどうかは、私自身の選択。

360
シャワーから戻るとベッドの上でゆらゆら揺れる長い脚。催眠術のように吸い寄せられ触れようとした瞬間、気配を察知して一気に噛みついてくる鷹の嘴。防戦一方では男が廃ると反撃をするが抵抗はなし。そのまま思う存分味わってやっと唇を離しても、まだ足りないと代弁するかのような二人を繋ぐ銀の橋。

361
「あれ?さっきの書類は…」「目の前の山の一番上です」「ペンは…」「先ほどポケットに戻しました」「資料はどこかな」「右の棚の2段目に」ガタッ ガサゴソガサゴソ 「お探しのおやつは3段目の引き出しの奥です」「(中尉、スゴイですね。流石だなぁ)」「 (馬鹿、あれは一般的な嫁の仕事だ)」

362
「あれ?ない…どこに置いたっけ…?」「ピアスならもうしてるぞ」「あ…」ごそっ ずるずるずるずる「おい、シーツを引きずっていくな。寒いじゃないか」「ん~、私が寒いです~。我慢してください」ばさばさ ごそごそ「お気に入りの上下セットならその手前だろう」「ありがとうございます…ん!?」

363
それほど多くを望んではいないけれど、欲の深さは限りなくて。他の何を排しても、時には人殺しさえ躊躇わず。しがみ付き自分自身を縛り付け、そんな自分に呆れ返るばかり。他の道はないものかシミュレーションを重ねても辿り着く答えはいつも同じで、己の欲深さに気付かぬように今日も守りを固くする。

364
「…っ!」「大丈夫か?」痛みのために座ったままの私を彼が心配そうに覗き込んでくる。「すみません。痛み止めが切れたようです」「これでも掛けていろ。女性は冷やすとよくないからな」脱いだ上着がそっと膝の上に置かれた。「私も…ですか?」「当たり前だ」少し怒った顔で腹部をそっと撫でられた。

365
「寒いはずだ」テントを出ると周囲は雪で覆われていた。「ここでも降るんですね」「ああ」滅多に見られない景色を二人静かに眺める。白い雪はすぐに解け、またすぐに赤い荒れ地が顔を出す。私のしていることも同じようなものなのだろうか。「これで少しは潤いますね」彼女の存在が凍った私の心を解す。

366
私に身を任せてよかったのか、その問いに彼女は少し笑って語り出した。「父は秘伝を伝える相手に二つ条件を付けました。一つはこれを大衆のために使う者。もう一つは、相手が男なら私が何をされてもいいと思う者にしろと。だから、貴方でいいんです」ああ、師匠。貴方はどこまで見抜いていたんですか。

367
「何か御用でも?」冷たい言葉であしらっても帰る気配は全くない。ため息をついて踵を返すと後ろからそっと抱き締められた。言いたいことはあるのに言葉が出なくて、激しい雨音だけが部屋に響く。無言のままキスを交わし不意に溢れてきた感情は…これは愛などではなく、体の奥に刻まれた遺伝子の囁き。
 *宇多田ヒカル「This is love」より妄想

368
「決め手は何だったんだ?」長年の疑問をぶつけると考え込む彼女。まさか成り行きとか言うんじゃないだろうな。「周りを見回した時に、貴方しかいなかったんです」「…」固まる私を見て笑い出す。「そういう可愛いところです。私には初めから貴方しかいません」私の伴侶は夫を転がすのが上手くて困る。
 *HIROKOさんのお誕生日に

369
「増田先生、見たんですか?」 むぎゅっ。「みへまへん」そんなに抓らないでくれ。「見たんでしょう」これは正直に答えた方がいいだろうか。背後にメラメラとしたオーラが見える。「はひ、ふみまへん。ひょっとらけ...」「許さない!」もみもみ「あっ、そこはダメ!」
 *増田先生と鷹目ちゃん(シロさんのまみむめも予測変換より)

370
「いい匂いだね」台所がキッシュの香りでいっぱいだ。「お誕生日に何も出来なかったので。こんなのでごめんなさい…」「じゃあ、来年も作ってよ」「来年も?」「うん、来年も再来年も、それからずっと先も」「分かりました!楽しみにしててくださいね」無邪気に笑ってるけれど、意味分かってるのかな?

371
この戦場に来てそう長くはないが、新しい仕事にも慣れ今では感情のコントロールも簡単になった。呻き声と腐臭の中、西の空にあの頃と同じ夕日が沈んでいく。一人で生活できているだろうか、困ったことはないだろうか。そんなことを思う資格さえ今の自分にはないことに思い至り、乾いた笑い声が漏れた。
 *B'z「ALONE」から妄想

372
「随分と遠くまで来たものだな」「はい」眼下を眺めながら定位置で彼女が頷く。私の目となり手足となり、時には盾となって常に隣にある存在にどれだけ助けられてきたことか。「でも、ここからでしょう?大総統閣下」「ああ、そうだな」遠慮がちに絡まる指を力強く握り返す。「これからもよろしく頼む」

373
「今度の休日にどうかな」そう言って差し出された封筒を開けると、気になっていた芝居のチケットが一枚と手書きの用紙が一枚。『一日脱走しない券(五枚綴り)』「君には芝居よりそっちの方が嬉しいか?」いたずらっ子のように笑う貴方。「子供ですか」馬鹿ですね、鷹の目からは一生脱走できませんよ?
 *きくのさんのお誕生日に

374
「ご主人は元気かね?」「お陰様で。奥様はいかがですか?」「相変わらず美人で優しいよ」「…っ、そうですか。うちは…」「何だ、倦怠期か?」「いいえ。最近、彼のお腹周りが気になって。オヤツを止めるよう副官さんに頼もうかと」「わっ、私は腹など出ていないぞ!」「ふふっ、冗談ですよ。あなた」

375
「彼との夜の生活はどうだね?」「セクハラです、閣下」「固いことを言うなよ、長い付き合いじゃないか。で、どうなんだ。君を満足させているのかな?」「…毎回毎回しつこくて嫌になります」「ほう。でもそれは君がいつもお強請りするからだよ」「してません!」「何だ、あれは無意識なのか。ふうん」

376
「お帰りですか?」ベッドを抜け出しシャツを羽織る男に声を掛ける。「ああ、そろそろ」「送りますので少し待ってください」馬鹿な、と言いかけた唇が不意に降りてきて私の動きを封じる。「そんな言葉では引き止められないぞ」見透かした顔が憎らしく、両手を伸ばしてもう一度ベッドに引きずり込んだ。

377
目の前の広く大きな背中を見つめ思わず溢れそうになる言葉をぐっと飲み込む。この気持ちに気付かれてはいけない、気付いてはいけない。貴方の理想の実現に女の私は不要だからいつまでも側にいられるように、このまま秘密にずっと秘密に。世間が愛を告げる日に自分の心にもう一度しっかりと鍵を掛ける。
 *バレンタインデー

378
デートの断りを入れる彼をそっと盗み見る。感情を出さなくなった代わりに、私の中の黒い火蜥蜴がもぞりと蠢く。彼を独り占めできることに赤い舌をチロチロ出して喜んでいる。「残業デートだな、中尉。ホットチョコでも淹れてくれないか?」お願いです、これ以上この黒い生き物を刺激しないでください。
 *バレンタインデー

379
病める時も健やかなる時も雨の日も嵐の日も、常に側にあることを貴方に誓います。病める時も健やかなる時も苦しい日も辛い日も、この手を離さないことを君に誓おう。例え片方が途中で倒れたとしても二人で立ち上がり共に生きて行く。例えそれが地獄だろうと二人ならきっと耐えられる。二人だけの誓約。

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「これは何ですか?食べ物?」「貝の一種で牡蠣というんだ。焼いても揚げてもいいが、新鮮なのは生が一番だな」「はあ…」「ほら、食べてみて」「どうやって?」「そのまま一口でちゅるっと」ちゅるるっ もぐもぐ「どうだね?」「にゅるっとして生臭くてい…苦いです」「中尉、その表現はちょっと…」

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「失礼しました」「うむ」「高価なものなんですよね?」「まあ、それなりに。海産物はこの国では獲れないからな」「ありがとうございます」ちゅるっ もぐもぐ ちゅるっ もぐもぐ「よく味わえばミルキーで甘いですね」「そうだろう?分かってくれて嬉しいよ」「はい、大佐の方が苦いです」「………」

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身体に馴染んだ音と油の匂いに目が覚めた。いつから起きていたのだろう、シーツが冷たくなっている。「すまん、起こしたか」銃を組み立て直す手を止めず視線だけでこちらを伺う。「シャツ一枚では風邪を引きますよ、もう若くないんですから」「酷いな」ちょっと格好いいと思ったけれど教えてあげない。

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食事中、彼が突然立ち上がり近寄ってきた。「ちょっと失礼、お嬢さん」「何ですか」腰を攫われ私も思わず立ち上がる。「食べ汚しが付いてる」「うっ、だからってこの体勢はないでしょう」頬をペロリと舐めた後、当然のように唇も食べられる。「食事が…まだ途中です」「こちらを先にいただくよ」もう!
 *かりんさんのイラッとするマスタングイラストから妄想

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「おい、何をしている」「閣下のほっぺを突ついてます」「理由を聞いても?」「このぷにぷにほっぺには何が入ってるのか、ずっと不思議で」「だから休憩時間に一心不乱に突ついていると」「そうです」「で、分かったのかね?」「それが分からなくて困ってます」「…気の済むまでやりたまえ」「はい!」

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「起きてください」ぷにぷにと脇腹の肉を押される。今日から筋トレを再開するから突つくのはやめてくれ。「朝ですよー」触るならもっと下をお願いしたい。「おーきーてー」首筋を舐める生温かい感触にハッと気づいて飛び起きた。「お前らか!」「わんっ」突つくのも舐めるのも妻だけにしてもらいたい。
 *いそろくさん「ぷにぷに大総統」おまけイラストから妄想

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「クイーンのフォーカード。さあ、脱いで」どうして勝てないのか、ストッキングを脱ぎながら彼を睨みつける。「エースのワンペア。次はブラかな?」私の方がポーカーフェイスは得意な筈なのに。「君の表情は簡単に読めるよ」賭けに乗ってしまった自分に腹が立ち、ムカつく顔に脱いだ下着を投げつけた。

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どんなに困難な状況でも貴方に従いついて行く。なのに時々自分の中の女がどうしようもなくざわついて自分自身を持て余す。「振り向いて。私を見て。私を愛して」決して言えない言葉。決して叶えられない願い。ぐっと唇を噛みしめて奥底に沈めようとしているのに…お願い、そんなに強く抱き締めないで。

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「おっと、忘れていた」ネクタイを整えていると、内ポケットに手を入れて彼が取り出したのは…銀色の細いフレームの眼鏡。「どうだ似合うか?」中指でブリッジをくいっと持ち上げこちらを見つめる。「まあ、それなりに」「それなり、か。自信失くすなぁ」いつの日か、彼が老眼鏡を掛けるのが楽しみだ。

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自分の隣で傷つく彼女を見る度に、もっと幸せにできる方法があったのではないかと後悔の波が押し寄せる。だが、いくら仮説を立てようと、実証されなければ意味がない。私達のカタチも今ここにある姿だけが真実だ。怯むことのない鳶色の強い眼差しに馬鹿な夢想を焼き尽くし、ただひたすらに前へと進む。

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痛っ。寝不足が祟っているのか、また同じ場所を噛んでしまった。口内に広がる鉄と塩の味に眉を顰めると同時に唇に感じる違和感。「舐めたら治る…いや、治らんか。すまん」え?何、今のは?ここは職場で、貴方は上司で、第一舐めたところで治りません。思考が混乱するうちに唇の痛みも消えてしまった。

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痛っ。自分の迂闊さに舌打ちする。いくら疲れているからって同じ場所を何度も噛むか。ほら見ろ、有能な我が副官殿も呆れて…え?近付く顔、開いた唇、動く赤い舌。スローモーションのように脳髄に焼き付く映像と刻み込まれる唇の感触。何だ、今のは?夢でないことを確認するために金の頭を追いかけた。

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とても気持ちよく目が覚め…えっ!?時計を二度見して飛び起きる。食事も散歩もすっとばし大慌てで家を出た。なんとか遅刻は免れて何事もなかったように仕事を始め、安心したところでの不意打ち。「珍しいな、寝坊か?」「えっ?」ぎくりとしてそちらを振り向く。「ピアス」バレてないと思ってたのに。

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鈍い痛みのせいで幾度も目が覚め、気が付くともう明け方。仕方なく鎮痛剤を飲みベッドに戻ると後ろからそっと腕が回された。「冷やすな」下腹部を優しくさする温かい手に痛みが和らぐ気がして、もう一度目を閉じる。己の性に嫌気がさすことも多いのに、こんな時だけは女でよかったと感じる身勝手な私。
 *ひづるさんのお誕生日に

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普段は尊大で自信たっぷりなのに、余裕のない様子でじりじりと近寄ってくる。「下着付けてませんよ」なんて、冗談でもちょっと刺激が強かったかしら。もうあとコンマ何秒で襲いかかってきそうな彼を、猛獣使いのように指一本で鼻先をちょんと突ついて窘める。そんなに焦らなくても、貴方のものですよ?

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今きっと私は物凄く情けない顔をしているはずだ。無言で彼女にもたれかかり胸に顔を埋める。「強い人が好きです」そう言いながら優しく髪を梳いて抱き締めてくれる。「弱った私も好きだろう?」「そんなことありません」少し復活して顔を上げると目の前には照れた顔。本当に君は、最高に駄目な女だよ。

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目の前でモリモリぱくぱくと実に美味しそうに食事を口に運んでいる彼女。「追加いいですか?」「どうぞ」軍の食堂だろうが高級レストランだろうが、いつでも同じ調子なのがいっそ清々しい。そう言えば食事と性欲に関するレポートなんてのもあったなと濡れた唇を眺めながら阿呆なことを考える昼下がり。

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さっきから一人でもぞもぞ苦労しているのを眺めていたが、遂に見兼ねて起き上がる。「ほら、貸して」ちょっとむくれた顔で髪をかきあげる仕草が可愛くて、わざとゆっくりピアスを嵌める。普段なら目を瞑っていてもできそうなくらい器用なのに寝起きだけは鈍いのが可笑しい。もしかして、甘えてるのか?

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「飲み過ぎですよ」グラスに伸ばした手に白い手が重なる。うまく運ばない案件にイラついて気付かぬうちに酒量が増えていたか。歳を取ったな、と溜息をつき目を閉じた私の顎を撫でる指。「これで我慢してください」喉を焼く酒の代わりに柔らかい感触が口内を満たす。まずいな、我慢できなくなりそうだ。

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「二人だけの時は、いつもこうしておいてほしい」バレッタを勝手に外された。「結うのもいいな。三つ編み、いや、ポニーテールもなかなか」好き放題されるうちに髪はぐしゃぐしゃ。「もうっ、どうしてくれるんですか!」「そんなに怒るな。シャンプーしてやるから」「…」シャンプーは気持ちいいのよ。

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「寝坊なんて無能ですね」「髪が跳ねてますよ、子供みたいで可愛い」「無精髭はあまり好きではありません」「前髪を上げると年相応に見えますね」「スーツだと3割増しで格好いいです。軍服も好きですけど」「朝からこんなこと…イヤです」真実に紛れ込ませた一つの嘘。貴方にはバレているのかしらね。
 *エイプリルフール